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「こんな素敵なお花屋さんがあるなんて、西荻っていいまち」。そんなふうに思う方も多いのではないでしょうか? お店の佇まいさえ見れば、ここがとっておきのお花屋さんであることがわかります!

1990年10月にオープンして、もうすぐ30年目を迎えるエルスール。代表の渡辺邦子さんにお話をうかがいました。

ぶれない軸を持つ

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――お店について大切にしていることは?

どんなときにも「ぶれない」というのが私の信念です。オープン当時から、主に白い花とたくさんのグリーン、自分が素敵だなと思う花を集めて置こう!ということを大切にしています。

お花は全部好きだけど、自分のお花屋さんだったらこう、というのが最初からあったから、それが自分の個性だと。ファッション、服飾の出身なので、そういうところで培われたと思うんですけど。

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(写真:エルスール提供)

―― 表現手法の一つと考えていらっしゃるんですか?

自分でつくったもので表現をしたいなと思って。何でできるかと考えて、大好きな花で、自分の世界の色を表現しよう、フローリストになろう、と思いました。

「赤いお花はないですか?」とお客様がいらっしゃったりするんですが、「ごめんなさい、赤いお花はいつもは置いていないんですよ」というんです。すると、「そうなの、ちょっと見せてね。今まで知らなかったお洒落なお花がいろいろあるんですね」とおっしゃったり。

(写真:エルスール提供)

さまざまな色の花を置くと売れるんだ、という考えはしません。多くの場合、こういうのを置けば売れるんだ、と置いてしまうと思うんですが、出発点が利益を求めることになってしまうんですね。私は、そういうことで商売をしようとは思っていません。自分の個性やつくったものを貫いていこうと思っています。

ぽつんと隠れ家的なお花屋さんをやりたかった

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よくお店は駅近がいいというけれど、落ち着いたところでやりたいな思っていて。

この辺は、30年前はもっと静かでした。ぽつんと隠れ家的なお花屋さんをやりたかったんです。駅から離れていても、ここだけ輝いて素敵だったら、お客様は自然に見つけてくれると思っていました。そいういうお店をやりたかったし、そういう自分でありたかったんです。全然不安でもなかった。

―――西荻にお店を構えたのは?
他のまちでも、いろいろ探したんですが、ここがたまたま空いていたので。まちから離れているので、ちょうどいいんじゃないと思って。

エルスールって、スペイン語で南風という意味なんですけど、ビクトル・エリセ監督の「エルスール」という映画が好きで。名前は最初から決まっていたの。この店は、たまたま駅の南側にある。縁なのかもしれないですね(笑)

こだわりは、白とグリーン、あいまいな色。

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――華やかな色は好きではないと伺ったんですが。

「シンプル・イズ・ベスト」が私のモットー。白とグリーンが中心で、モーブ系の色が好き。中間色、あいまいな色ですね。ピンクでも、ピンクー!っていう強い色より、かすれた、雲がかかったような色が好き。こういう色でやっていこうと思いました。そして、白が大好き。白にもいろいろな白があるんです。

30年前、開店準備をしていた時に、ご近所のおしゃれな方が通りがかられて。

「何ができるの?」と聞かれて、「花屋です」と言うと、「素敵ね、こういう雰囲気を変えないようにね、頑張ってね」と言われたんです。最初はいいなあと思うお店ても、いつのまにか変わってしまうことが多いから、と。今でも来てくださるお客様です。

しっかりとした何かがなくて始めてしまうとだめなんじゃないかと、自分も思っています。

お客様との会話は宝物

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わたし、商売人でもないし、商売をしているという感じもないんですけど、ここまでよくやってきたなあと思います。欲張らないし、「もっともっと」というのはあんまりなくて。自分なりの世界のなかで、自分できちんと勉強していければいいかなと思っています。

――楽しいですか?

そう。楽しいし、素敵なお客様がいっぱい付いてくれています。嬉しい言葉を聞かせてもらうと励みになるし、お客様との会話は私にとって宝物です。

長いファン、遠くからのファンもいてくださって。自分の持っているものを表現しているだけだけれど、皆さんがそれを受け取って、喜んでくださるのは嬉しいですね。

――30年の間で、苦労は?

苦労を苦労と感じたことがないのかも、楽天家だから。まあ、毎日楽しいというか。うーん、毎日楽しいわけないか…(笑)でも、幸せな思い出がいっぱいあって、いやなことはすぐに消えてしまうんです。

原点はクローバー

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――一番好きな花は?

一番好きなのはクローバーで、私の原点です。大好き!

いつも母に髪を三つ編みにしてもらって、クローバーの花をくっつけたり、腕輪をつくったり。白とグリーンはそこから来ていますね。父も花が好きで庭をいつもきれいにしてくれていた。

小さな花、白い花が好き。野の花みたいに、そっと気付かれず咲いているみたいな、見つけたら輝いているみたいな。そういう存在が好きです。そういうのが原点にある。ものすごく強情なわりに、ちょっと意外かもしれないですけどね(笑)

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編集後記

映画「エルスール」を観ました。父と娘の葛藤を描いた、美しく、穏やかで、悲しい作品。渡辺さんは、とってもエレガントで、かわいく優しい方でした!ぶれない軸の理由は、花や仕事に対するとてもピュアで、真摯な向き合い方なのだと思います。「確かな目を持って、確かに伝えればちゃんと返ってくる」という言葉が印象的でした。

結婚式などのお祝いごとのお花はもちろん、お悔やみ用のお花の注文を受けることもとても多いそう。人生の大事な節目にエルスールのお花を、と思うファンは多いようです。誰かを想ってお花を贈る、自分のためにお花を買う、どちらも、キラキラした宝物のような気持ちから生まれる行為。人と花との関係を改めて考える機会にもなりました。

以上

文:chisa
写真:佐藤華子(エルスール提供以外)

Bouquet