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西荻には、なかなか予約の取れない大人気店というのがいくつかありますね。その一つがこちら、たべごと屋 のらぼう。でも予約が取れなくても、次こそは行きたい!と思わせる、温かい対応を受けます。そして、晴れてお店に伺えた日には、とっても美味しいごはん、居心地の良いおもてなしに迎えられます。のらぼうの魅力の秘密、その裏にある哲学を知りたく、店主の明峯牧夫さんにお話を聞きました。

 

地産地消にこだわるのはなぜ?

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——のらぼうは、野菜とお魚が本当に美味しいですね。

三鷹の野菜を使っています。自分たちが住んでいる地域の食材を使って何かできないかな、というのが当初(2002年開業)からのコンセプトです。

毎朝買い出しに行って、朝採れのものをその日の夜使う分だけ仕入れるスタイル。可能な限り毎日農家さんのところに行って、立ち話したり、畑をちょっと手伝ったり、畑の情報もゲットしたり。基本的に誰がつくったものか把握していたいんです。

魚は、メインは小田原の朝獲れのもの。小田原から直接仕入れている吉祥寺の魚屋さんに買い付けに行っています。

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——新鮮な食材、地産地消がコンセプトにあるんですね。なぜですか?

身土不二(しんどふじ)という考え方がありますが、自分が暮らしている地域で採れるもの、旬のものを体に取り入れるのが、食べることの基本じゃないか、理想ではないかと僕は思っています。

人それぞれいろんな考え方、選び方がありますが。自分たちがやっていることは、仕事であり表現だと思っているので、自分たちにしかできないことの中で可能性を探っています。

新鮮な美味しい野菜ものらぼうの魅力かもしれないけど、農家さんたちのメッセージや思いを、料理や雰囲気を通して伝えたい。

それを知るには自分で見ないといけない。だから、僕は仕入れは必ず自分で行くんです。畑に行って、農家さんに話をきくことがとても楽しい。

 

——農家さんのメッセージとは?

都市農地というのは、災害時の避難場所であったり、みんなが集える場所だったりもするんです。子どもが見学に来て、きゃあきゃあいって虫を追っかけたり、芋掘りしたりしていますよ。

なんとなく日頃忘れがちな土の感触。特に都会の人にとっては、達縁遠くなっていますよね。野菜をつくって売っているだけじゃない。彼らはそういう意識でやっています。

どうしてもね、都会で暮らしていると「なんで畑?」「いらないんじゃない?」と思うかもしれないけど、逆なんですよね。都会にこそそういう場所が必要。都市農業の特徴として、そこの場所だけすこーんと抜けて、空が広い場所がポツンとある。住宅地のなかに点在する形で、頑張ってやっているんですね。

のらぼうには、こういう素敵な農家さんが近くにいて、いまだったらこういう野菜が採れてますよ、と言ったことを伝えていく役割がある。農家さんからのバトンを受け取ってお客さんに引き渡す、そういう場所だと思っています。

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のらぼうの誕生

 

——西荻でお店を出したきっかけは?

たまたまですね。姉がこの場所でお店をやっていて、結婚を機に閉店するというので、声をかけられました。その頃僕は、昼間は姉の店を手伝って、夜は八王子のお店で料理の勉強をしていたんです。

高校を出てから9年間、僕はその八王子の店で、だしのひきかたから、包丁の握り方まで、全部教わったんですよ。その間に、接客や料理の面白さに目覚めちゃって。飲食店が、自分を表現するための場、自分の道かなと思っていました。

いつかは自分の店を持ちたいと思っていたんですけど、そのタイミングが突然来たんです。26歳の時。姉に「あんたやってみない?」と言われた時、「これ完全にフライングだな」と思いました。

でも、ここを逃したら、次はいつ、こういうチャンスが来るかかわからない、と直感的に思って。通常、この規模の飲食店を一から始めようとすると莫大な資金がかかるんです。そこを比較的少なめの資金で始められました。

ただ、現金を持っていないからどうしようかと。自分で一口1万円の債権を発行して、八王子のお店のお客さんや親戚に買ってもらいました(笑)。26歳の若者のチャレンジを、大人たちが好意的に面白がって応援してくれたんです。

自分は自信がなくて不安ばっかりだったんだけど、いろんな人の力を借りて、いろんな人が背中を押してくれました。

同時に、みんなに西荻は大変だよ、と脅されました(笑)。安くてうまいのは当たり前っていう、食のレベルが高いエリア。

いざ開店してみたら、やっぱり一筋縄ではいかない。ニューオープンのお店にはみんな行くし、なおかつ厳しい。ちゃんと味、雰囲気を見て、どうかなって品定めされている感じがありました。ビビっちゃいましたね (笑)

 

のらぼうの歩み

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——この17年間はずっと順調だったんですか?

最初の一年はめっちゃヒマでした(笑)いまでは笑い話だけど、店の家賃が払えなくて、五百円玉貯金を切り崩したり。

でも、楽しくてしょうがなくて。自分で開拓している感じで、店をどんどんよくしていくぞ、という勢いで。毎日めっちゃヒマだけど、めっちゃ楽しい、という矛盾した状況が一年くらい続きました。

一度はみなさん来てくれるんだけど、続けてきてもらうためには、どうすればいいかなあと毎日考えていました。今思うと、些細な笑っちゃうようなことばかりだけど。一年といわず最初の5年はずっと試行錯誤でしたね。

 

——どういう工夫をしてみたんですか?

僕は、接客を重視しました。料理が美味しいというのは当たり前じゃないですか。

お店を形づくる周辺的なものに改善の余地があったと当時は思っていました。「ほんとありがとうございます、ぜひまた来てください!」というのを、全身で表現して。今振り返ると、暑苦しかったかなと思いますが(笑)

 

——状況は少しずつ変わっていったんですか?

1年後くらいから、メディアに取り上げてもらえる機会が多くなって。きっかけになったであろういくつか雑誌の取材、掲載がありました。編集者さんたちが店を面白がってくれて。

 

——何が面白かったんでしょうか?

いまはあまり言っていないんだけど、当時は「野菜料理の店」と謳っていました。

東京の野菜で、野菜がメインでというお店はあまりなかったので、面白かったんだと思います。

その後どんどん「地産地消」「東京の野菜」という冠言葉が付く店が増えていきました。世の中が、そういう空気感に変わっていく時だったと思うんですよ。

 

農家さんとのつながりは宝物

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——その波に乗れたというのは、運だけではないですよね。価値を信じていたのでは?

農家さんたちと毎日一緒に仕事をしてきて、彼らの顔を見ちゃったし、関係を持っちゃったので、彼らと一緒にいい方向にいけたらな、とずっと思っていました。お互いが正当に評価されるようなあり方、世の中をつくっていきたいよねと。

僕の中心には、常に彼らの存在があって、同志のような関係。精神的なパートナーになってもらえている気がします。

——正当な評価をされていないな、と思うことがあったんですか?

この店は、都市農家ってなに?というところからから始まっています。当たり前だけど、農家さん、漁師さんがいて、自分たちが食べられているという基本がある。でもそれは、都市部に住んでいる我々が忘れがちなことだと思うんです。

なぜかというと、産地から、土から離れているから。動物を屠殺する現場からも見えないようにされている。意識しろといっても、難しいことだと思うんですよね。

 

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オーガニックのものしか食べない、という人たちがいるけど、僕にはなんだかエゴイスティックに映るんです。「どういう人が、どういう苦労と思いでつくっているのか知ってるの?」ってつい意地悪で聞きたくなっちゃう(笑)。それを見たり触れたりできたら、この野菜はだめなんて簡単には言えないだろうから。

そここそが、食べる、生きる糧を得る、ということの基本なんじゃないか。そここそを一番のメッセージにしたい。そのための第一歩として、近くの農家さんが頑張っているし、そこから知るべきじゃないかなと。

農家さんに、農薬使わないでというのは、僕のセンスではとても言えない。一方通行で求めることは、消費者特有のエゴイスティックなあり方になってしまう。それだけはしたくなくて。

でも一方で、最近は農家さんと、少しずつ「こういうのやってみない?」とか「来年種取りしてみよう」とか言える関係性ができつつあります。

長い長い日々の関係性をつくったうえで、5年くらい前からです。例えば、僕が農家さんたちにリクエストしたこともきっかけになったと思うんですが、在来種ののらぼう菜の栽培が、三鷹の畑でも始まったんですよ。

有機的って、使い古されてますけど、こういうことこそが、人と人の有機的な関係かなと思っています。生産者との対等な関わり合いをやっと持て始めてきたかなと。向こうはどう思っているかわからないけど、僕にとっては宝物みたいなものです。

 

——のらぼうの今後は?

都市農業の主役の一人は都市生活者なので、積極的にかかわってほしい。そして、都市農家さんの存在を伝えたい。その手助けをしていきたいです。

畑でのワークショップや、収穫祭、日常の収穫の手伝い、料理教室なんかを入り口にして。料理教室では、一緒に朝畑に行って、自分の手で収穫して、持ち帰って、さて何つくろうかって。畑の存在が身近になるだろうし、お客さんにとっても有意義な時間になるんじゃないかと思います。日々の仕事に追われて、まだ構想段階ですが(笑)。

 

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<編集後記>

お話をうかがって、胸がいっぱいになりました。明峯さんのそのぶれないまっすぐな生き方、どこまでも謙虚な姿勢、自然体でいきいきとした生命力に、心を打たれました。ここでは書き切れなかった、明峯さんの生い立ちやご家族との関係も素敵なのです。のらぼうの哲学に少し触れることができました。西荻の名店です。また、行きます!

なお、店名の由来「のらぼう菜」は、東京都あきる野市出身の伝統野菜。秋に種を蒔いて、寒い冬をじっと耐えて、春にいきいきと葉を広げ、次々と芽を出し春の間ずっと収穫できる。そのたくましさに、自分の店もそうありたいとの思いだそう。

 

chisa