特別企画 アイスクリーム工房・西荻牧場・ぼぼり
1992年に西荻窪駅南口から徒歩２分の西荻南２丁目交差点近くにオープンした『アイスクリーム工房・西荻牧場・ぼぼり』が、2019年10月18日、多くのファンに惜しまれつつ閉店した。『しぼりたて牛乳』という名前の人気メニュー、当日販売分だけを毎朝手作りする、冷凍保存不可、季節限定含め年間約100種類以上のアイスクリームを販売するなど、そのこだわりは計り知れない。オーナーの長谷川恵さんは、どうやってオリジナルのアイスクリームを作り出したのか、27年間の歴史の中で何を感じたのか、なぜ閉店を決意したのか、今だから語れるあれこれをロングインタビュー。一回目は『こだわりのアイスクリームは、こうして誕生した』。二回目は『ぼぼり誕生秘話』。三回目は『時代の動きとの葛藤、そして、決意』四回目は『大きな決意から始まる新しいネクスト』をご紹介。
第二回 ぼぼり誕生秘話
紆余曲折・でもぶれていなかった
長谷川恵さんは、３歳の頃からアイスクリームを作っていた。当時は、夏になると菓子屋の店頭に、蓋がスライドするショーケースが置かれ、中にアイスクリームが並んでいた。秋の声を聞くと、ショーケースが店の片隅に撤去され、ブルーシートで覆われ、太い鎖で施錠されていた。コンビニやスイーツ店が多くある今とは違い、アイスクリームは、夏季限定の贅沢なおやつだった。
長谷川さんのお母さんもアイスクリームが大好きで、一年中いつでも食べたいと、雑誌のレシピ記事を参考に、自宅でアイスクリームを作っていた。最初はお手伝い、次第に見様見真似、学校に通う頃になると「恵ちゃん、今日はアイスクリームの日よ」と言われ、食卓に置かれた材料で、自らアイスクリームを作るようになった。『アイスクリームの日』は、お母さんが食べたい日で、児童労働をさせられていたのかもしれないと笑いながら語ってくれた。さらに父方の祖父が営んでいた中華料理店で、クリームソーダを販売していたことから、ソフトクリーム製造機械が身近にあった。ソフトクリーム製造機が玩具のような存在で、知らず知らずにアイスクリームの英才教育を受けていた。
進学を考えるようになった頃、読書が好きだったことから国語の先生を目指し、大学の文学部国文学科へ進学するが、教職課程の児童心理学に疑問を感じ、教師の道を断念。インテリアスクールにも通っていたことから、インテリアコーディネーターの職に就き、キッチンインテリアを担当した。この時に人生を振り返り、アイスクリーム作りで慣れ親しんだキッチンに携わるということは、紆余曲折したのかもしれないが、ぶれていない生き方を実感したそうだ。そして、25歳の時に20歳年上の男性と結婚し、長野県で専業主婦の生活を送ることになった。
アイスクリームを好きという気持ちは誰にも負けない
縁あって長野県出身の男性と結婚をした長谷川さんは、ご主人の故郷で新婚生活を送ることになった。ある日、長野県小布施のロードサイド店のアイスクリームを食べる機会があった。「こんな美味しいアイスクリームを食べたことない」。高校時代には、お小遣いのすべてをアイスクリームに使い、大学時代には、半蔵門の有名レストランで働いて得た収入で、都内の多くのアイスクリーム店を食べ歩いた。とにかくアイスクリームが大好きだった。世界一のアイスクリーム好きだと思っていた。
そんな長谷川さんの舌をドライブインの小さな店のアイスクリームが唸らせた。機会がある度に店を訪れた。そんなある日のこと、その店のオーナーを紹介する雑誌記事に目が止まった。よくある店紹介ではなくバイオグラフィーを紹介するロングインタビューだった。記事を読んで驚いた。『アイスクリームを好きという気持ちは誰にも負けない』というタイトルで、アイスクリームに対する愛情が綴られていた。『ちょっと待って、私だって負けていない』と思った。さらオーナーの年齢が３歳年下の23歳だった。『私より年下のあなたが、なんでこんな美味しいアイスクリームを作れるの』とも思った。そして『アイスクリーム愛を証明するには自分で店をやるしかない』と心に決めた。思い立ったが吉日。アイスクリームの店をやりたいとご主人に話をすると「アイスクリームを作れるようになったら相談しなさい」と言われた。確かにその通りだと思った。子供の頃からアイスクリームを作っている、都内をはじめ各地の気になるアイスクリームを食べ尽くしている、アイスクリームへの愛情は誰にも負けない。しかし、そのことのすべてが個人的な趣味の領域に過ぎなかった。販売を目的としたアイスクリームを作ったことはなかった。
必死に駆け抜けた3ヶ月
どうしてもアイスクリーム愛を証明したい長谷川さんは、履歴書片手に自転車で30分程の長野市内のアイスクリーム店を訪れ、売り子として雇ってもらった。販売の仕事をしながら製造スタッフと仲良くなり、プロのアイスクリーム作りを学んだ。基本的には子供の頃に学んだレシピと変わりはなかったが、製造機の使い方などを約3ヶ月間かけて学んだ。アイスクリーム作りに自信をつけて、改めてご主人に相談を持ちかけた。「アイスクリームを作れるようになったからお店を持たせて下さい」。ご主人には、３ヶ月という時間をかけてアイスクリーム作りを学んだ、その偽りのない本気に快諾し、善光寺から東へ２㎞の長野市内の商業施設の一角に出店することを決めた。これがアイスクリーム工房・ぼぼりの26年間の歴史の始まりだった。
次回は『時代の動きとの葛藤、そして、決意』。お楽しみに。
長谷川恵さんの最新情報は、
インスタグラム：https://igdig.com/user/boboliice
