自家製粉石臼挽十割手打蕎麦・西荻窪『鞍馬』
西荻窪に鞍馬ありといわれる日本蕎麦屋の6つのキーワード
想い
西荻窪駅南口から徒歩1分の場所に、知る人ぞ知る美味いと評判の日本蕎麦屋がある。粋という言葉が似合う白と黒を基調とした門構え。蕎麦好きに名著として知られる『ソバ屋で憩う』(杉浦日向子著)の特選5店に紹介された『鞍馬』だ。
午前11時30分の開店前に行列ができる事もしばしば、昼食時にかかわらず蕎麦をすする人が絶えることがない。西荻窪に鞍馬ありともいわれる日本蕎麦屋だ。客席20席程の店内には、モダンな絵画が飾られ、窓際には木工品が並んでいる。高級蕎麦屋の趣もありながら家庭の温かみを感じる落ち着いた雰囲気を醸し出している。
テーブルの上には、お品書き以外にこんなメッセージが置いてある。『当店は自家製粉石臼挽き手打蕎麦です。蕎麦は水を加えただけの十割蕎麦で提供致します。甘皮蕎麦も十割の太打ちです。特におすすめは「箱盛そば」で、純度の高い蕎麦の味を出したいと努力致しております。味・香り共に充実したものを取り揃えましたので、蕎麦本来のコシであるもちもち感もお楽しみいただけたら幸いです。全ての玄蕎麦は、有機栽培の種子名「常陸秋蕎麦」を茨城県の契約農家から直接買い付け使用致しております。(原文)』。店主の蕎麦作りに対する想いとこだわりを感じ取ることができるメッセージだ。
決意
鞍馬の店主は、西荻窪生まれの西荻窪育ち、71歳の吹田政己さん。会社員として働いている時に、父親の体調から家業を継ぐことになるが、家業の酒屋に魅力を感じず悩んでいた。仕入れた商品の販売手数料をいただくのではなく、自ら作ったものを売る商売をしたかった。「これを作りたいという夢はありませんでした。何でもよかったんです。西荻窪に多くある焼鳥屋も考えました」。そんな吹田さんの目に止まったのが、自家製手打ちの日本蕎麦屋だった。当時は蕎麦粉を仕入れて打ち立ての蕎麦を提供する店は珍しく、西荻窪に無かったなかったことから、酒屋を閉じて日本蕎麦屋を開店することを決意した。
師匠
吹田さんには、師匠と呼べる人物がいる。蕎麦打ち職人の高橋邦弘氏だ。蕎麦の味と香りにこだわりを持ち、全国に100人を超える弟子を持つ人物だ(翁達磨グループ代表)。吹田さんは、高橋氏のもとで蕎麦打ちを学び、1984年に鞍馬を創業した。1986年10月から自家製粉石臼挽き十割手打ち蕎麦屋として出発をし、平成6年11月には店内に製粉室を増設し、石抜き、磨き、粒揃え、皮むき、石臼挽き、ふるまいまでの製粉の全行程を一貫して自家内で行い、出来上がった蕎麦粉を、水まわしをしてまとめ上げ、のし、切りをしている。平成16年からは、すべての玄蕎麦を茨城県の契約農家か買い付けている。使用している玄蕎麦は、香り、風味、甘味に優れた有機栽培の常陸秋蕎麦だ。
常連
開店から10年間は辛抱の期間だったという。「自分の好きな蕎麦を打ちたい。そんな気持ちから、私が打った蕎麦を好んでくれるお客様が、常連さんになってくれるのを待っていました」。吹田さんは、師匠の高橋氏から技術だけではなく、蕎麦への想いも学んでいた。師匠の高橋氏自身がこう語っている「百人食べて百人が美味しいということはあり得ないです。食べた人間すべて翁が一番、他の蕎麦は食べられないなんてことになったら、むしろ疲れちゃいます。そのうち30人が気に入って、残ってくれれば、充分じゃないかと思います。僕自身が食べて美味しいと思う蕎麦を、多少は他の人も美味しいと思っているに違いない。これが支えだったかもしれません。とにかく蕎麦を食べてもらいたい。それでよかったらまた来て下さい。翁を開店した頃の思いは、それが第一でした。(翁達磨公式ホームページより)」。そんな師匠の蕎麦への思いが、鞍馬の吹田さんにも受け継がれているように思える。
感謝
鞍馬が開店した頃は、インターネットもなくSNSで情報が拡散する時代ではなかった。「開店した当時は、世の中がグルメブームだったので多くの雑誌から取材を受けました。そのことがきっかけで、私が打った蕎麦を好んで食べていただけるお客様が少しずつ増えていきました。本当にありがたいことです」。そして今。「この歳でやれる事があること、その事で多くの人が喜んでいただけること。仕事が面白い。とても幸せです」。
逸品
案内された席に着き、箱盛そばを注文。すぐに徳利と猪口、薬味と箸がのった盆が運ばれてきた。自慢の蕎麦に期待が高まる。注文をしてから約3分、光沢のある黒い箱が運ばれてきた。蓋を開けると、上品な蕎麦の香りがほんのり。細く切り揃った水々しく美しい十割蕎麦。では・・・。まさに『西荻窪に鞍馬あり』。
自家製粉石臼挽十割手打蕎麦
西荻窪 鞍馬
東京都杉並区西荻南3-10-1
03-3333-6351
http://www.nishiogikurama-soba.jp
営業:11:30?16:00(Lo15:30)、土・日・祝日:11:30?17:00(Lo16:30)
休み:水曜日(祝日の場合は営業/翌日休業)
【編集後記】
空腹を満たすもいいが、粋な蕎麦時間を楽しみたい店だ。季節の天ぷらと定番のお麩の天ぷらをつまみに、日本酒2種類を半合ずつ。締めに箱盛そばを。薬味のネギと山葵もいいが、黒七味もいい。うまい。ぜひ一度『西荻窪 鞍馬』を訪れて欲しい。
インザラフURL:http://in-the-rough.com/