骨太で、心やさしい八百屋、長本兄弟商会
西荻に、「ほびっと村」という「村」があるのをご存知ですか?
建物の1階は無農薬や有機栽培にこだわった八百屋「長本兄弟商会」、2階は1階のこだわり食材を使ったレストラン「バルタザール」。3階には独自の世界観を持つ、これまたこだわりの本屋「ナワ・プラサード」。
今回は、創業1975年、日本のオーガニック八百屋の先駆けと言われる「長本兄弟商会」の店長、長本仁さんにお話を聞きました。実はこちらは、西荻歴5年の私の行きつけのお店。しかしこれまで、必要なこと以外はほとんど店員さんと会話をしたことがなかったのです。今回はいろいろお話させていただき、たくさんの発見がありましたのでご報告します!
丁寧な暮らしのためのセレクトショップ
長本兄弟商会では、「この農家さんのこの野菜は外せない」といった、お店のメガネにかなった商品だけを全国から取り揃えているそう。いわばセレクトショップですね。必ずしも、JAS有機認定マークがついているものがいいと思っている訳ではなく、本当の意味での品質や生産者の腕が、見極めのポイントだそう。
実は長本兄弟商会は、普通の八百屋さんが商品を買い付ける一般栽培野菜の市場には入れないそう。「特殊マーケット」のみから調達する特別な八百屋なのです。この世界には無農薬、有機栽培にこだわった野菜のみを扱う問屋さんがあるとのこと。
お店では、石鹸や洗剤などの日用雑貨も売っていますが、これらもオーガニックや国産、無添加などにこだわった問屋さんから。その他、調味料やお肉、穀類、豆類、飲料、加工食品なども販売。オーガニックで丁寧な暮らしがしたい人にとって、ほぼなんでも手に入る品揃えです。
とはいえ、あまりにもルールを厳しくすると、自分たちの首を絞めてしまうことに。引いては、応援したいと思っている生産者さんたちの大きな負担になってしまうことも。無農薬の農産物をつくるのは農家さんにとって、非常に大変なこと。なので、あくまで「美味しくて安全な商品を届ける」という趣旨で、バランス感覚を持って調達することを心がけているそうです。
洞窟みたいな八百屋だった過去
父上の跡を継いで、仁さんは二代目。20歳ごろからこちらで仕事を始め、いま20数年になるそう。
「一風変わったおじちゃんたちが出入りいる」というのが、子ども時代のお店への印象。髪が長くてヒゲを生やして、ジーパンを履いている。少なくともスーツを着た一般のサラリーマンとは違う風貌。「洞窟みたいな八百屋だった(笑)」と。
実は父の光男さんは、ヒッピー文化のシンボルと言われた国分寺の飲み屋「ほら貝」のオーナーでもあったそう。長本兄弟商会にも、創業時からしばらくは、特に環境問題やナチュラルなライフスタイルに関心の高い個性的な面々、アーティストや写真家の方々も多く出入りされていたそうです。
こういう家庭環境について、「普通だとは思わなかったけど、とにかく、食卓で食べる野菜が美味しかった」という仁さん。一般のスーパーの野菜を使っている日は、「これスーパーのでしょ?」とわかってしまったほど。「お父さんは取りあえず悪いことはしてないな」と思ったそうです(笑)。
少しずつ小ぎれいな八百屋に進化
いまは、お洒落な八百屋さんといった佇まいの長本兄弟商会。実は仁さんの代になってから、お店の雰囲気を少しずつ計画的に変えてきたそうです。時代は変わるので、同じことをやっていてはダメだと。幅広い年齢層のお客さん、西荻の街並みや時流を考えて調整してきたそう。
「父の時代は、よりエコ意識の高い層が中心で、お客さんに対して指導するような雰囲気、あるいはお客さんの自由度が低い面があったのではないでしょうか(笑)」。いまは、そういった特別な人だけでなく、もっと普通の人にも受け入れられるために、どうしたらいいかなと考えているそうです。
「このお店の根本には、自然環境を大切にしたいという思いがあります。でも押し付けはできない。ファッション感覚で入ってきてもらってもいい。もちろん自分の健康のためでも。ただその先に、何かしら気づきを持ってもらえたら嬉しいなと思っています。こういう時代のなかで、どう生きていくか、自分で問いかけて選択して、行動してもらえたら」
おじいちゃん、おばあちゃんが心配
この9月に始めた新たな試みが、栄養バランスを重視した「日替わり弁当」(800円)。2階のバルタザールで作っています。火曜から金曜の昼食、夕食向けに注文可能(前日までに要予約)。さらにプラス100円で配達もしてくれるそう。この彩り!とても美味しく、大満足でした。
このお弁当を始めた裏には、時代的な背景も。「心配しているのは高齢のおじいちゃん、おばあちゃんです。いろいろな種類を作れなくて、栄養バランスが悪いんではないかと思うんです」
以前トラックで野菜の引き売りやっていた時、いつも訪問しているお宅の女性が、インターホンを押しても出てこないということが。たまたま女性の娘さんを知っていて、連絡したそう。それが、亡くなられたその方が発見されるきっかけになったそうです。配達することによって、地域の見守り隊のような役割も果たせるのではないかと。
バルタザールの店長(弟の開さん)と、こういう世の中で、自分たちの強みを生かしてできることは何か?と考えて始めてみたそう。「それで皆さんが喜んでくれて、高齢の方々やそのお子さたちも安心してくださるなら、やっている価値はあるかなと思います」
ゆるくて、さりげなく優しい
ちなみに、長本兄弟商会では3000円以上(米以外)を買えば、無料で自宅にお届けしてくれるって知っていましたか?
「どう見てもそれ重いでしょ、っていうお客さんがいるでしょ。『配達しましょうか?』って声かけてますよ」とのこと。
そんなこと知らなかった(笑)どこにも書いていないですしね。そういう、あまり宣伝をしないゆるい感じ、さりげない優しさがこちらのお店らしいなあとも思います。
オーガニックの野菜や食品が文化になるように、との思いで、11月3日文化の日に開店。昨日でちょうど43歳になったそうです!これからも、よろしくお願いします。
chisa
(写真)長本兄弟商会のこだわりの食材を使用したレストラン、バルタザール。ちゃんとしたご飯が食べられて、お酒もあり。夜の西荻に繰り出す際の1軒目におすすめ。
(写真)バルタザールの「季節の野菜グリルベジタブル」。野菜それぞれの美味しさが味わえ、シンプルなのに満足感が。